不動産投資において保有物件数がある一定規模に達すると、所有者が個人であっても「不動産投資で事業を営んでいる」と見なされて個人事業税が課税されます。
事業税と聞くと法人に課税される税金だと思われがちですが、事業規模や業種によって個人にも課税されるのです。
では海外不動産においては、事業税はどのような取扱いになるのでしょうか。
そこで今回は海外不動産にかかる事業税についての考え方を、個人と法人のケースに分けて事業税の計算方法も交えながら詳しく解説します。
合わせて海外不動産投資をおこなう上での事業税に関する注意点や、よくある疑問や質問についても説明します。
事業税に関する基礎知識
ここでは事業税の概要について解説します。
また個人における事業税と所得税の関係性や、個人事業税と法人事業税の特徴の違い、なぜ法人事業税についても理解しておくべきなのかを合わせて説明します。
事業税とは?
事業税は事業を営む個人や法人に課せられる地方税で、納税先は各都道府県になります。
なぜ事業税が課せられるのかというと、個人や法人が事業を営む上で利用することになる公共のインフラ・サービス(道路・水道・各種公共サービスなど)を維持するための経費について、事業者自身が一部負担すべきという考えがあるからです。
事業税は地方税のため、事業税に関する悩みや疑問に対する問い合わせ先が所得税や消費税などの国税と異なります。
所得税や消費税などの国税に関する問い合わせ先が税務署であるのに対し、地方税である事業税の問い合わせ先は各都道府県税事務所になります。
なお事業税は納税義務者が個人か法人かで2種類に分類され、個人に課税される事業税を個人事業税、法人に課税される事業税を法人事業税といい、それぞれ特徴や税率が異なります。
また事業税は地方税のため、税率が各地方自治体によって異なることに注意が必要です。
ちなみに「事業税」と似た名前の税金に「事業所税」というものがありますが、こちらは全く別の税金なので注意してください。
事業税と所得税の関係について
事業税の中でも個人事業税については、所得税の確定申告と関連する部分があるので理解しておきましょう。
個人事業主は前年度の事業所得を計算し、3月15日までに各都道府県税事務所に「個人事業税の申告書」を提出しなければなりません。
ですが所得税の確定申告書もしくは住民税の申告書を提出した人は、個人事業税の申告書を提出する必要はありません。
なぜなら所得税の確定申告書もしくは住民税の申告書の内容を基に、各地方自治体が事業税の計算をおこなって納税通知書を送付してくるからです。
このように所得税の確定申告や住民税の申告をしている人は、基本的に事業税の申告をする必要はないのですが、事業を廃止した場合や事業をしていた人が亡くなった場合は事業税の申告書を提出する必要があります。
事業を廃止した場合は廃止の日から1ヶ月以内に、事業者が亡くなった場合は亡くなった日から4ヶ月以内に事業税の申告をおこなわなければなりません。

個人事業税と法人事業税
ここでは個人事業税と法人事業税のそれぞれの特徴や違いについて説明します。
また不動産投資における事業税について、なぜ個人事業税だけでなく法人事業税の特徴も理解しなければならないのかについても解説します。
不動産投資では投資規模がある一定のラインを超えてくると、個人事業主から法人への移行を考える必要が出てきます。
そのため、個人事業税と法人事業税の特徴の違いを理解しておくことが大切です。
個人事業税とは
個人事業税は、法律で定められた70種類の「法定業種」を事業として営む個人に課税される税金です。
70種類の業種は第1種から第3種まで3つに区分けされ、3%~5%の範囲内で区分けごとに税率が異なります。
なお事業がどの区分に属するかは、個人事業の開業届けに記載した内容で決まるのではなく、あくまで事業内容の実態に即して判断されます。
個人事業税を理解するポイントは、個人事業をおこなっている全ての人が納税対象になるというわけではないことです。
個人事業税の納税義務者は、以下の2つのポイント両方に該当する人が対象になります。
- 法定70業種に該当する事業をおこなっている人
- 個人事業の所得が290万円を超える人
個人事業の所得とは、事業による売上から経費を差し引いた金額のことです。
個人事業税の場合、290万円の「事業主控除」というものがあり、売上から経費を差し引いた所得からさらに290万円の金額が差し引かれます。
そのため、個人事業の所得が290万円を超える場合のみ、該当する法定業種に設定された税率の個人事業税が課税されます。
法人事業税とは
法人事業税は、法人が納税義務を負う3つの税金のうちの1つです。
法人事業税のほかに、法人税と法人住民税も納税しなければなりません。
法人事業税は、益金から損金を差し引いた所得をもとに課税されます。法人事業税の納税義務は、事業をおこなうすべての法人が負うことになります。
70業種に該当する事業者に絞られる個人事業税とは、この点が大きく異なるので注意が必要です。
ただし地方公共団体や国立大学法人などの公共法人は、法人事業税は課税されません。
またPTAや同窓会の実行委員会といった法人格のない団体なども、基本的に法人事業税は課税されません。
ただし法人格のない団体であっても、収益事業をおこなって利益をえた場合は法人事業税が課税されます。
不動産投資において個人事業税と法人事業税の違いを理解すべき理由とは
個人で海外不動産投資を始めるのに法人事業税についても理解しておく必要がある理由は国内と海外とに限らず、不動産投資を進めていくなかで所有物件数がある一定規模以上になってくると、節税の面で個人事業主から法人化を考える必要が出てくるからです。
個人事業主の場合、所得税は累進課税が適用されます。
そのため保有不動産の部屋数や棟数が増えれば増えるほど課税所得も増えるので、税率がどんどん高くなっていき、最高で45%もの高い税率で課税されてしまいます。
ですが法人化をすれば所得税ではなく法人税に切り変わり、どれだけ所得が増えても税率は23.2%のままです。
そのため事業規模が一定数以上になれば、個人事業主から法人化することには大きなメリットが生じます。
また法人化することで、海外不動産投資を活用した節税スキームの利用が可能になることも法人化の大きなメリットの1つです。
海外不動産の節税スキームとは、減価償却費を大きく計上できるアメリカの築古木造住宅に投資をして海外不動産所得を赤字にし、その他の所得と損益通算して所得を減額もしくは赤字にすることで節税する手法です。
以前は個人の投資家でも、このアメリカの中古木造住宅を活用した節税スキームを利用することが可能で、富裕層を中心に利用者が増えていました。
ですが節税効果が大きすぎることと、一部の富裕層だけがこの節税効果のメリットを享受できることで税負担の公平性が損なわれるとされ、2020年度の税制改正によって個人がこの節税スキームを理由することが禁止されてしまいました。
ですが法人では現在もこの節税スキームの利用が可能であり、海外不動産投資において法人化を積極的に考えるべき大きな要因の1つになっています。
そのため将来の法人化をにらんで、事業税においても個人事業税だけでなく法人事業税についても理解を深めておく必要があるのです。

海外不動産にかかる事業税の取り扱いについて
ここでは、海外不動産にかかる事業税がどのように取り扱われるのかについて説明するにあたり、まず海外不動産にかかる税金はどのような原則に基づいて課税されるのか、日本国内の居住者と非居住者で課税範囲がどのように変わるのかについて詳しく解説します。
そのあとで海外不動産投資で事業税の課税対象となる事業規模についての考え方や、事業税の非課税所得についても説明します。
海外不動産にかかる課税の原則
海外不動産投資で得た所得には、原則として日本国内と海外現地の両方で課税されます。
そのため日本での確定申告はもちろんのこと、海外現地でも家賃収入などの所得を確定申告する必要があるのです。
また、海外不動産の売却時に譲渡所得を得た場合も、日本国内と海外現地の両方で譲渡所得税(キャピタルゲイン税)が課税されます。
このように海外不動産投資では、基本的に日本国内と海外現地の両方で課税される二重課税状態が生まれることになります。
そこで日本は二重課税対策として、世界各国と租税条約を締結しています。
この租税条約を締結している国で海外不動産投資をおこなった場合、日本国内の確定申告時に「外国税額控除」を適用することができます。
外国税額控除の申請をしたら、日本と海外現地の両国で確定申告の内容が確定した後に還付金が支払われることになります。
つまり外国税額控除の利用によって、二重課税状態を是正することができるのです。

海外不動産の事業税に関係する居住者・非居住者の考え方
海外不動産投資による事業税は、日本国内の居住者にのみ課税され、非居住者については課税されません。
居住者とは、日本国内に住所があり、なおかつ1年以上の期間にわたって現在まで日本に住んでいる人のことを指します。
それ以外の人は、非居住者となります。
日本の課税に関する考え方は、日本国内の居住者については国内と海外の両方で生じた所得に対して課税します。
一方で非居住者については、日本国内で生じた所得に対してのみ課税します。
つまり日本国内の居住者が海外不動産投資をおこなって所得を得た場合、事業税が課税されるということです。
一方で日本国内に住んでいない非居住者が海外不動産投資によって所得を得たとしても、事業税は課税されません。
事業税の対象となる賃貸物件の規模
海外不動産投資において個人事業税の課税対象となる賃貸物件の規模は、「5棟10室」が目安の基準となります。
「5棟10室」の5棟は一戸建て住宅が5棟という意味で、10室はアパート・マンションの部屋数が10室という意味です。
つまり一戸建てを5棟、もしくは部屋数が10室のアパートやマンションを保有するような規模になれば、それは事業税の対象となる規模だということになります。
では一戸建て、アパート、月極駐車場などを複数所有している場合などは、どのようにカウントして判断すればよいのでしょうか。
この場合、下記の3つの基準に従って、アパート・マンションの部屋数に置き換えてカウントします。
- 一戸建て1棟=アパート・マンションの2室
- 駐車場5区画=アパート・マンション1室
- 不動産を共有している場合は、持分割合で換算はせずに建物全体の部屋数で判断
例えばハワイに一戸建てを2棟、カリフォルニアに駐車場を20区画、フィリピンにマンションを6室保有しているとします。
この場合、下記のように計算をして5棟10室に達しているかを判断することになります。
- 一戸建て2棟=アパート・マンションの4室(2棟×2室)
- 駐車場20区画=アパート・マンションの4室(20区画÷5区画)
- フィリピンのマンション=アパート・マンション6室
よって保有不動産の部屋数=4室+4室+6室=14室
つまりこのケースではアパート・マンションの部屋数に換算して14室のため、10室の基準を超えており、事業税の対象となる「事業的規模の不動産投資」と見なされます。
なお、夫婦で部屋数16室のアパートを50:50の割合で保有しているというようなケースですが、このケースも事業的規模と見なされます。
なぜなら先ほどの3番目の基準に従って、建物全体の部屋数で判断されるからです。
持分割合に応じた自分自身の保有部屋数は16室÷2=8室ですが、8室<10室だから事業的規模には達していないという判断は誤りです。
不動産を共有している場合でも、持分割合で換算せずに建物全体の部屋数16室で事業的規模だと判断されることになります。
ただし5棟10室という基準は、あくまで目安であることに注意してください。
5棟10室基準は全国の自治体で統一した判断基準の1つとされていますが、各自治体によって考え方が異なりますし、あくまで実態に即した個別の判断が優先されます。
非課税所得について
ここでは海外不動産投資における事業税が非課税となる所得について、個人と法人それぞれのケースで解説していきます。
とくに個人事業税の場合、事業期間が1年未満だった場合の事業主控除290万円の適用方法について誤解されやすい部分があるので注意が必要です。
この注意点についても合わせて解説します。
個人事業税の非課税所得について
個人事業税の場合、事業税が課税されない非課税所得の基準は290万円を超えるか超えないかがポイントになります。
なぜなら個人事業税には、「事業主控除」という290万円の控除があるからです。
つまり個人事業で所得が発生していたとしても、290万円以下であれば事業主控除によって控除後の所得がゼロになるため、個人事業税が非課税となるのです。
個人事業税には事業主控除以外にもさまざまな控除があるため、290万円の事業主控除の適用後に所得が発生していた場合でも、各種控除をさらに適用することで所得がゼロになれば非課税となります。
法人事業税の非課税所得について
一方、法人事業税の場合、非課税となるかどうかは所得ではなく資本金の大きさがポイントとなります。
法人事業税は益金から損金を差し引いた所得に課税されます。
そのため所得がゼロもしくは赤字であれば、法人事業税は課税されません。
ですが、これは資本金が1億円以下の企業に限った話だということに注意が必要です。
資本金が1億円を超える企業の場合、外形標準課税と呼ばれる法人事業税が課税されます。
外形標準課税は、所得が赤字であっても課税される点が大きな特徴です。
ただし海外不動産投資をおこなっていて個人事業から法人化する場合、資本金が1億円を超えるということはほぼ無いと思います。
そのため通常は法人化をしても、所得がゼロもしくは赤字の場合、法人事業税は課税されないと覚えておけば良いでしょう。

海外不動産にかかる個人事業税について
ここでは海外不動産投資で得られた収益に課税される、個人事業税の計算方法について説明します。
所得税の確定申告をしていれば自治体が税額計算をおこなってくれるので、自分で個人事業税の税額計算をする必要はありません。
ですが計算方法を理解していれば、納税のためにどれだけの金額を用意しておけばよいのか目安が分かる上に、キャッシュフロー計算時にもより正確に計算できて大変便利です。
合わせて個人事業税が所得税法上の経費として取り扱えることについても、詳しく解説します。
個人事業税の計算方法
個人事業税の税額は、以下の計算式を用いて計算します。
【個人事業税の計算方法】
個人事業税=(事業所得-事業主控除290万円-その他の控除)×税率
事業所得は、海外不動産投資などの事業で得られた収益から必要経費を差し引いたものです。
そこから、すべての個人事業主が利用できる290万円の事業主控除を差し引きます。
さらに個人事業税の税額計算では、290万円の事業主控除以外にも「事業所得の赤字の繰越控除」や「譲渡損失による控除」など全5種類の控除を利用できます。
適用要件を満たしている控除があれば、利用して節税に繋げましょう。
なお青色申告をしている個人事業主であっても、個人事業税の税額計算では所得税の税額計算で利用できた「青色申告による65万円の特別控除」や「基礎控除などの所得控除」は適用できません。
間違えないように注意してください。
では具体的に個人事業税の計算をしてみましょう。
【個人事業税の計算例】
仮に海外不動産投資の収入が1,000万円、経費100万円、前年からの赤字繰越しが300万円だったとします。
海外不動産投資の場合、法定70業種のうち第1種事業(37業種)のなかの「不動産貸付業」に該当します。
そのため、個人事業税の税率は5%が適用されます。
これらの値を上記の計算式に当てはめると、個人事業税の税額は以下のようになります。
個人事業税={(1,000万円-100万円)-290万円-300万円}×5%
=15万5,000円
個人事業税の経費計上について
個人事業税は、所得税の確定申告時における経費として計上することが可能です。
そのため納めた個人事業税の領収書を保管しておき、確定申告時に必ず経費として計上するようにしましょう。
海外不動産投資で利益を最大化させるためには、いかに課税所得を圧縮して節税することができるかがポイントになります。
課税所得を圧縮するためには、経費にできるものは漏れなく計上しなければなりません。
ではなぜ税金として納めた個人事業税を、所得税法上の経費とすることができるのでしょうか。
それは個人事業税が、継続的に事業を営む上で必ず発生する支出だと見なされるからです。
なお納税した個人事業税の経理処理は、以下のようにおこないます。
仮に、個人事業税として45,000円を支払ったとします。
支払ったその日に個人事業税を経理処理する場合、借方に「租税公課」、貸方に「現金」の勘定科目を用いて仕訳処理をおこないます。
借方 | 貸方 | ||
租税公課 | 45,000 | 現金 | 45,000 |

海外不動産にかかる法人事業税について
ここでは法人事業税の計算方法や、資本金が1億円を超える法人にのみ課税される外形標準課税について説明します。
合わせて法人事業税の損金算入についても詳しく解説します。
法人事業税の計算方法
法人事業税の税額は、以下の計算式を用いて算出することができます。
【法人事業税の計算方法】
法人事業税=法人の課税所得×法人事業税率
法人の課税所得とは、益金から損金を差し引いた金額のことです。
【法人事業税の計算方法】
法人の課税所得=益金-損金
益金と損金は税務上の概念のため、会計上の概念である収入や経費とは厳密には意味合いが異なります。
ですが、上記の計算式を直観的に理解するためには、益金=収入、損金=経費と考えて問題ありません。
なお法人事業税率は地方税のため、各地方自治体で税率が異なります。
しかも事業年度の開始日、法人の種別、所得金額の大きさなどによって税率が細かく区分けされています。
そのため法人事業税率については、各都道府県のホームページで確認する必要があります。
それでは実際に法人事業税を計算してみましょう。
【法人事業税の計算例】
下記のような法人があったとします。
法人所在地 :大阪
事業年度の開始日:令和3年4月1日
法人の種別 :普通法人
法人の課税所得 :3,000万円
税率の種類 :超過税率が適用
この条件の場合、法人事業税率は7.48%です。
そのためこの法人に課される法人事業税の税額は、以下の計算式で求められます。
法人事業税=3,000万円×7.48%
=224万4,000円
法人事業税における外形標準課税とは
さきほど説明した法人事業税の計算式ですが、この方法で計算できる法人事業税は資本金が1億円未満の法人に課税される法人事業税のみです。
資本金が1億円を超える法人については、法人の所得額だけでなく企業規模や事業規模まで考慮した「外形標準課税」が導入されます。
外形標準課税は、事業から得られる所得額の大きさだけでなく、事業所の床面積の大きさや従業員の人数、資本金の大きさまで含めて、その法人が営む事業の規模を正当に評価しようとする課税制度です。
そのため資本金が1億円以下の法人では事業所得が赤字であれば法人事業税は発生しませんが、資本金が1億円を超える法人については外形標準課税制度によって事業所得が赤字であっても法人事業税が発生するケースがあります。
法人事業税の損金算入について
法人事業税は損金算入が可能です。
損金算入とは、簡単に言うと経費として計上できるということです。
つまり納税した法人事業税は税金であるにも関わらず、損金算入(経費計上)によって課税所得を圧縮することができ、結果として法人税の節税に寄与するということになります。
なお法人事業税の納付についてですが、事業期間が6ヶ月を超えてなおかつ法人税額が20万円を超える普通法人の場合、中間時と確定申告時の年2回、申告と納税をおこなう必要があります。
損金算入のタイミングですが、中間申告時に納税した法人事業税はその事業年度の確定申告時に損金算入することができます。
一方、確定申告時に納税した法人事業税については、翌年の確定申告時に損金算入することになります。

海外不動産の事業税に関する注意点
ここでは、海外不動産の事業税に関して気をつけるべき4つの注意点について説明します。
保有する海外不動産が事業税の対象か確認する
そもそもの話ですが、保有する海外不動産が事業税の対象となるのかを確認しましょう。
1つの目安として5棟10室という基準がありますがこれはあくまで目安であって、実態に即して各自治体が個別に判断するので注意が必要です。
つまり5棟10室という基準に達していない場合であっても、事業と見なされるケースがあるということです。
実際、過去に事業的規模の判断をめぐって下された判例では、たとえ5棟10室の基準を満たしていなかったとしても実態に即して最終的な判断を下すべきとされています。
たとえばフィリピンのボニファシオ・グローバルシティ(BGC)エリアで家賃15万円のコンドミニアムを8室保有していたとします。
5棟10室の基準でいえば、事業的規模には達してはいません。
ですが年間家賃収入は1,440万円にも達し、営利性と反復継続性、物件所有者の社会的地位や経済力といった視点で判断すると、このケースでは事業的規模と判断される可能性は高いと考えられます。
一方、日本国内の地方で部屋数10室のアパートを所有していたとしても、内部の劣化がひどくて借り手がなかなか見つからず、空き家のままずっと放置されているというようなケースでは、事業の営利性と継続性に乏しく物的設備についても欠落していると見なされ、「事業的規模の不動産所得」とは見なされない可能性が高いです。
このように事業的規模の判断は各地方自治体が実態に即して判断するため、海外不動産の保有物件数が1つの目安である5棟10室に近づいてきたら、各都道府県税事務所に問い合わせて事業税の対象となるか確認する必要があることに注意してください。
確定申告の漏れや経費・控除のミスに注意する
個人事業主の場合、所得税の確定申告によって個人事業税が自動で計算されます。
そのため確定申告をする場合は、別途個人事業税の申告をする必要はありません。
ですが、個人事業税を正しく納税するためには、確定申告書(第二表)の「住民税・事業税に関する事項」について、記載漏れの内容に注意しましょう。
万が一、事業税に関する記載事項が誤っていたり、本来経費にできないものを経費として計上したりすると、「申告漏れ」を指摘されて後で追徴課税が行われます。
確定申告は、くれぐれも漏れやミスのないようにおこないましょう。

事業税の納付時期に注意する
ここでは個人事業税と法人事業税の納付時期について、それぞれ解説します。
個人事業税の納付時期は、8月末日と11月末日の2回です。
ただし各都道府県によって納付時期が異なることもあるので、自治体のホームページや都道府県税事務所のホームページで確認してください。
1回目の納付時期の8月頃に、2回分の納税通知書が送付されます。
一方、法人事業税の場合、事業年度の終了から2ヶ月以内に申告して納税しなければなりません。
たとえば事業年度の終了日が3月末日の法人であれば、2ヶ月後の5月末日までに確定申告書の提出と法人事業税の納税をおこなわなければならないということです。
なお法人税額が20万円を超える法人の場合、事業年度期間中に中間申告と納税をおこなう必要があります。
つまり、年2回の法人事業税の申告と納税が必要だということです。
法人化による節税を検討する
不動産投資の事業規模が拡大してある一定規模に達すれば、個人事業主から法人化を考える必要があります。
なぜならどれだけ課税所得が増加したとしても税率が一定のままの法人税に対して、課税所得の増加に伴い税率も上昇する累進課税の所得税(個人事業主)では、事業規模が拡大すればするほど節税面で大きなハンデを背負うことになるからです。
加えて海外不動産投資の場合、法人であれば築古木造住宅を使った節税スキームを利用することができます。
現在、この節税スキームは2020年度の税制改正によって個人が利用することは禁止されてしまいました。
海外不動産投資による節税スキームは非常に大きな節税効果を発揮するため、この節税スキームを利用できるというだけでも法人化に大きな意味をもたらします。
海外不動産投資における法人化は節税面で非常に大きなメリットがあるため、事業規模が大きくなってきたら個人事業主からの脱却を積極的に考える必要があります。

よくある質問
ここでは海外不動産投資の課税について、よくある疑問や質問について回答していきます。
海外不動産には日本と現地どちらの税が課税されるのか?
海外不動産投資では、原則として日本と海外現地の両方で課税されることになります。
物件購入時は、日本で課税される税金は特にありません。
ですが日本国内の不動産会社と締結する契約書や金融機関と取り交わすローン契約書には印紙税がかかるので、収入印紙を購入する必要があります。
一方海外現地では国ごとに名前は変わるものの、日本の「不動産取得税」「印紙税」「登録免許税」に該当する税金が課税されます。
海外不動産の保有時には、得られた家賃収入に対して所得税が日本と海外現地の両方で課税されます。
そのため日本と海外現地の両方で確定申告をおこなって納税しなければなりません。
なお日本と租税条約を締結している国で海外不動産投資をおこなえば、「外国税額控除」を利用して二重課税を回避することが可能です。
また海外のほとんどの国では固定資産税が課税されるため、海外現地で固定資産税を毎年納税する必要があります。
そのほか海外現地特有の税金があれば、それらも納めることになります。
物件売却時に譲渡益を得た場合は、日本と海外現地の両方で譲渡所得税(キャピタルゲイン税)が課税されることになります。


個人事業主に課税される事業税に関する「事業区分」とは?
個人事業税が課税される業種は全部で70業種あり、3つに区分けされています。
物品販売業や飲食店業などの第1種事業(37業種)、畜産業や水産業などの第2種事業(3業種)、医業や弁護士業、コンサルタント業などの第3種事業(30業種)です。
区分けごとに税率が設定されており、第1種事業が5%、第2種事業が4%、第3種事業が3%と5%です。
海外不動産投資は第1種事業に属するため、個人事業税は5%の税率が課されます。
課税対象業種が70業種もあるため多くの業種で個人事業税が課税されることになるのですが、なかには70業種に該当しないものもあり、それらについては個人事業税が非課税となります。
例えばライター業や通訳業、画家や漫画家、スポーツ選手、プログラマーなどです。
ただし70業種に該当しないかどうかは、あくまで各都道府県税事務所の個別の判断になります。
確定申告書の「住民税・個人事業税に関する事項」の書き方は?
所得税の確定申告によって個人事業税の税額を自治体に計算してもらうためには、確定申告書B第二表の下部にある「住民税・個人事業税に関する事項」の「事業税」の記入欄に必要事項を記載しなければなりません。
海外不動産投資にかかる事業税の記載で特に重要となるのが「非課税所得など」「損益通算の特例適用前の不動産所得」「不動産所得から差し引いた青色申告特別控除額」の3つです。
1つ目の「非課税所得など」については、事業を兼業している人や個人事業税が非課税となる所得を有している人が、該当する選択項目を選んでの番号を記載する欄になります。
兼業している業種や非課税となる業種について、1~10までの選択肢が用意されているので、該当するものがあれば選んで記入してください。
2つ目の「損益通算の特例適用前の不動産所得」ですが、「所得税における損益通算の特例」を適用する前の不動産所得の金額を記載します。
「所得税における損益通算の特例」とは、不動産をローンで購入した場合に、土地の部分を購入するために支払ったローン金利については費用計上して不動産所得以外の黒字所得と損益通算できないとするものです。
そのため所得税の課税所得を計算するためには、土地部分の購入のために支払った金利を計算して、その金額は経費に計上せずに計算します。
ですがこれはあくまで所得税法上の特例なので、事業税の計算については適用されません。
そのため、ここでは土地部分の購入の為に支払った金利も経費計上して不動産所得を再計算し、記載します。
3つ目の「不動産所得から差し引いた青色申告特別控除額」ですが、所得税の計算では10万円~最大65万円の青色申告特別控除を適用できるのですが、事業税の計算ではこの控除は適用できません。
そのため所得税の計算の際に青色申告特別控除を適用していれば、控除した金額をこの欄に記載します。
税務調査で事業税が追徴されるケースは?
税務調査で事業税が追徴されるケースは、所得税の修正申告が必要になった場合が考えられます。
なぜなら事業税は、所得税と同じく課税所得に対して税率を乗じて税額計算をおこなうからです。
そのため本来は経費として計上できないものを経費計上したり、適用できない控除を誤って差し引いて課税所得を少なく申告していたりすると、修正申告によって課税所得が大きくなってしまいます。
これにより、事業税の税額も変わって追徴される可能性があるのです。

まとめ:海外不動産にかかる事業税はケースで異なる | 課税対象であれば申告・納付漏れがないよう注意しよう
今回は海外不動産投資にかかる事業税について解説しました。
一般的な事業規模の目安となる「5棟10室基準」に所有する海外不動産の規模が達したら、「事業的規模の不動産投資」と見なされて個人事業税が課税されます。
ただし「5棟10室基準」はあくまで目安のため、各都道府県税事務所が実態に即して個別に課税対象かどうかを判断します。
これより少ない部屋数で課税対象と見なされる可能性もあります。
そのため「そろそろ事業的規模と見なされるかもしれない」と思ったら個人で勝手に判断はせずに、まずは都道府県税事務所に確認しましょう。
同時に個人事業税が課税されるような保有物件数になってくると、個人事業主のままでは所得税の累進課税制度によって税制面で大きなデメリットも生じます。
そのためどれだけ所得が増えても税率が一定の法人税を考慮して、個人事業主から法人化へのステップアップを考えるタイミングだと言えるでしょう。
また法人化によって、2020年度の税制改正大綱で個人投資家については封じられてしまった「海外不動産を活用した節税スキーム」を利用でき、節税面で大きなメリットを享受することもできます。
今回の記事を読んで、海外不動産にかかる事業税や法人化するタイミングについて考えてみてください。