不動産投資に初めて挑戦しようと検討している方にとって、税金の複雑さは大きな障害となりやすい部分です。
特に消費税に関しては各国で税率が異なったり、課税の有無が条件ごとに分かれていたりと理解しにくくなっています。
そこでこの記事では、消費税がどのような場面で発生するのかという基礎的な内容から解説しています。
消費税の仕組みを踏まえて不動産投資にも反映しているので、税金の基礎として学んでいきましょう。
基本|不動産の消費税は「消費されるもの」にかかる
不動産投資で発生する税金は仕組みが複雑なものが多く、全体像を理解するには深い知識が必要です。
そこで消費税においてはどのような商品やサービスに対して課税されるのか、根本的な部分から解説していきます。
消費税を理解するには「担税力」の知見が必要
不動産投資にかかる消費税を理解するには、担税力という捉え方を理解すると詳しく理解しやすくなります。
ここでは概要と減価償却との兼ね合いを紹介していきます。
担税力とは
担税力とは租税を負担する能力のことで、所得・資産・消費の3項目で基準を定めます。
これは税制が公平に適用されるように設けられており、主に以下のような内容です。
- 所得税額は短期間で大きな収益を上げるほど増額されていく
- 資産は目に見えるものがほとんどだが、定価が定められていないので税額の評価が難しい
- 消費税は所得額に関わらず全国民一定なので、公平性を保ちやすい
上記のように、基本的には所得が多い人の方が税金も増えていく「累進税率」という方法を採用しています。
しかし「消費」にも反映するのは社会的にも困難であることから、消費税率は一定になっています。
消費行動は生きていくうえでは欠かせないため、各国民への公平性が保たれていると評価できるでしょう。
よって不動産投資でどのような物件を扱ったとしても、消費税に関しては課税の対象を理解すれば算出しやすいと理解してください。
不動産取引は減価償却との兼ね合いが重要
国内・海外の不動産問わず、投資をする際は減価償却の理解が必要です。
不動産には耐用年数が設定されているとおり、築年数が経過するごとに価値が下がっていきます。
これを言い換えると長期間かけて住宅を消費しているということであり、担税力の「消費」に該当してきます。
したがって耐用年数が設定されている不動産を購入した際は、消費税の課税対象になると判断しましょう。
減価償却をおさらいしたい方は下記の記事を参考にしてみてください。

建物の売買は消費税の対象となる
前項で解説した通り、不動産取引を行った際には消費税が発生します。
しかし注意しなければならないのが、基本的には建物価格のみに消費税がかかるということです。
あくまで耐用年数は建物に設定されているもので、土地には設けられていません。
そもそも土地は消費するものではないことから、消費税においては非課税となっています。
よって不動産を購入した際は建物価格にのみ課税されているので、詳しく内訳を確認するようにしてください。
土地の売買は用途によって課税の有無が分かれる
土地を売買した際は消費税が発生しないという認識で誤りはありませんが、条件によっては課税対象となるケースがあります。
更地の場合は非課税取引になる
これまで解説してきたとおり、更地や住宅の土地代には消費税がかかりません。
これは売買に限らず、土地の貸し付けを行った場合でも同様の理由で非課税となっています。
土地の取引に関しては、使用権・所有権が譲渡されたと認識する方が正しく理解できるでしょう。
駐車場は耐久年数に関わるため課税の対象になる
土地が課税対象となるケースは、舗装をした駐車場として取引をすることです。
住宅ほど顕著ではありませんが、一度舗装した箇所は時間をかけて劣化してしまいます。
また駐車場は設備を整えた「施設」であるため、第三者に消費されるものと区別されます。
したがって条件としては一般の不動産と同様であることから、消費税の課税対象になるので注意が必要です。

消費税の有無は不動産の売主が課税事業者であるかを確認
ここまでは消費税がどのようなものを対象に課せられるかを解説してきましたが、実際に取引をする際は「課税事業者」の理解も大切です。
以下で紹介する内容は非常に重要なので抑えておきましょう。
課税事業者の定義とは
課税事業者とは、消費税を納める義務がある事業主のことです。
通常消費税が課される不動産を購入した際は納税しなければなりませんが、売主が課税事業者でなければ免除されることがあります。
売主が課税事業者であるかどうかは、以下の2つの判定方法で定められます。
【基準期間】
個人は前々年、法人は原則前々年度における、消費税が課される商品・サービスの売上高(課税売上高)によって納税の有無が分かれます。
基準期間内の課税売上高は1,000万円が基準です。
・1,000万円を超える:消費税を納める義務がある
・1,000万円以下:下記の特定期間に従う
【特定期間】
特定期間の場合は、個人事業主だと前年の1月~6月が、法人だと前年度の期首から半年間が評価期間となっています。
基準期間の課税売上高のボーダーラインに加え、特定期間内の給与支払額も条件に追加されます。
・課税売上高と給与支払額ともに1,000万円を超える:納税の義務がある
・課税売上高と給与支払額のどちらか一方が1,000万円以下:課税・免税を選べる
・課税売上高と給与支払額どちらも1,000万円以下:納税の義務なし
上記の基準で課税事業者となった場合は、税務署に「消費税課税事業者届出書」を提出することになります。
国税庁から提供されているこちらの資料に必要事項を記載して提出しましょう。

売主が課税事業者でない場合は消費税を納める必要がない
課税事業者の概要を紹介しましたが、基本的に不動産会社から物件を購入した場合には消費税が発生すると考えましょう。
ただし個人間で売買を行った際は、相手が課税事業者であるかを確認する必要があります。
もし条件に該当しなければ消費税を納める義務はないので、取引の前から意識しておいてください。

海外不動産の取引では消費税が発生するのか?
ここまで解説してきた消費税に関する基本的な情報を踏まえ、海外不動産を扱った際の詳細を紹介していきます。
海外不動産投資でも多くの税制を学ぶ必要がありますが、消費税に関しては以下の内容を参考にしてください。
消費税は取引の対象となるものがどこにあるかで判別する
消費税がどのように課せられるのかを調べるときは、購入する物件がどこにあるかを確認することが大切です。
たとえ日本の不動産会社を仲介して海外の物件を購入しても、消費税は現地の規定に従います。
当然物件価格も現地の相場によって定められているので、物件の所在地を明確にするようにしてください。
基本的に投資先の税制に従って消費税が発生する
2023年1月現在で日本の消費税は10%ですが、投資先の国によって税率は異なります。
一般的には各国の消費税率を調べれば目安がつくので、現地の税率を調査するようにしてください。
ただし扱う商品・サービスによって課税の有無や税率が異なるケースもあり、不動産に関しても一概には言えないのが難点です。
あくまでも目安として判断し、海外不動産を扱う際は仲介業者から詳しい情報を入手するようにしましょう。
海外不動産の取引で日本の消費税が発生することはない
海外不動産の売買時に日本の消費税が重複して課せられることはないので、現地の税制に従って納税するようにしましょう。
しかし所得税など一部の税金においては、日本と現地の両方の税制に対応しなければいけないこともあります。
その際は外国税額控除が適応となるので、忘れずに申請するようにしましょう。
海外不動産投資におけるそのほかの税金は、以下の記事で詳しく解説しています。

不動産売買の仲介手数料も消費税の課税対象となる
不動産の取引で仲介業者を挟む場合、そこで発生した手数料に関しても消費税が発生します。
ここで注意するのは、サービスを提供している企業の所在地です。
もし海外の不動産を購入しても、国内の不動産会社を仲介している場合は日本の消費税に従います。
いっぽうで投資先の国に支店があり、その企業と契約した際は現地の消費税に従うといった流れです。
ただし売却時にかかる仲介手数料に関しては、宅地建物取引業法によって限度額が定められています。
区分は不動産の売却価格によって異なり、以下の3段階に分かれています。
- 200万円以下:売却価格の5%+消費税10%
- 200万円~400万円:売却価格の4%+消費税10%
- 400万円以上:売却価格の3%+消費税10%
例として、売却価格が1,000万円の国内物件を売却した際の仲介手数料を計算してみます。
(例)売却価格が1,000万円の国内物件を売却した際の仲介手数料の計算方法
{(200万円×5%)+(200万円×4%)+(600万円×3%)}×1.1=396,000円
事務手続きにかかる費用も高額になることがあるので、事前に相談料などにも目を向けておきましょう。

国内不動産での消費税算出方法
ここでは日本の消費税の仕組みに従って、物件を購入した際の税額を計算してみます。
通常の物件取引の消費税
例として建物価格が1000万円、土地の価格が1500万円で売却した場合の消費税を算出していきます。
国内不動産の場合は消費税率が10%で、建物価格だけが消費税の課税対象です。
よって、1,000万円×10%=100万円が売却時の消費税となります。
土地と建物との価格が区分されていない場合の消費税
不動産の売却時に土地と建物の価格が区別されていない場合は、固定資産税などをもとに建物の価格を算出することになります。
場合によっては相続や贈与した場合の基準となる「相続税評価額」を基にして、正確な建物価格を割り出します。
相続税評価額は時価で計算していくため、物件の価値を明確にする際によく用いられるものです。
建物価格がわかれば消費税額の計算方法は同様なので、物件の売却時などは参考にしてください。

不動産売買で発生した消費税の納付方法
ここでは不動産を取引した際に発生する消費税の納付方法を解説していきます。
納税が遅れないように、詳しい情報を予め抑えておいてください。
基本的には確定申告で納税を行う
消費税の納税も所得税や住民税と同様に、確定申告で行っていきます。
個人で不動産投資をする際は、翌年3月31日までに納税するようにしてください。
このとき海外の不動産に投資をした場合、国内に住所があれば現地と日本での確定申告が必要です。
消費税に関しては二重課税になることはありませんが、所得税などを納める際は注意しましょう。
海外不動産における確定申告については、下記の記事で詳しく解説しています。

納税額によっては中間申告が必要な場合がある
通常消費税の納付は年に一度で問題ありませんが、消費税納税額が48万円を超えると翌年は中間申告が必要になります。
評価期間は個人の場合は前年、法人の場合は前事業年度が対象です。
【年間の中間申告の回数と消費税納税額の基準】
・48万円以下:確定申告1回
・48万円~400万円以下:確定申告1回、中間申告1回
・400万円~4,800万円以下:確定申告1回、中間申告3回
・4,800万円~:確定申告1回、中間申告11回
上記のとおり、年間の消費税納税額が4,800万円を超えると大幅に中間申告の回数が増えていきます。
該当する場合は税務署から納付書が送られてくるので、期日に気を付けて納付してください。
個人の場合は不動産の売却額に要注意
個人事業主であれば消費税の課税事業者ではないケースもありますが、1000万円以上の売却額になると2年後から課税の対象となります。
特に資産価値が落ちにくいタワーマンションなどは、売却費も高額になることが多いです。
知らぬ間に課税事業者になっていると手続きが慌ただしくなってしまうため、賃貸用の不動産などを扱っている方は意識しておきましょう。

不動産投資の消費税に関して覚えておきたい5つのこと
不動産投資における消費税を細部まで理解するために、以下で紹介する5点も抑えておきましょう。
家賃収入に対しては消費税は発生しない
不動産投資では家賃収入(インカムゲイン)と売却時の収益(キャピタルゲイン)が収益の基本です。
しかし消費税がかかるのは不動産の購入時と売却時のみで、家賃収入には発生しません。
あくまでも商品やサービスを利用した際に消費税が発生すると理解しておきましょう。
所得税などは日本の税制に従うので注意
海外不動産投資では現地の消費税が適用されると解説してきましたが、その他の税金は基本的に日本の税制が適用されます。
消費税は物件がどこにあるかを重視する一方で、その他の税金は自身がどこに住所を持っているかで判断します。
したがって国内に住んでいれば、大半の税金が日本の税制に従うことになると想定しておいてください。
特に税金の中心である所得税に関しては国内・海外投資ともに高額になりやすいです。
実際に物件を購入する前から、税制や節税対策などを学んでおきましょう。
建物の新築・中古問わず一律10%の消費税が発生する
日本の不動産価格は築年数が経過するごとに安くなりますが、消費税額は物件の新古に関わらず一定です。
たとえ耐用年数が経過した物件であっても、販売されている不動産を購入した時点で消費税は発生します。
不動産価格が落ちても税率が変化することはありません。

消費税課税対象の売買では総額表示が義務付けられている
もともと扱う対象物が高額なので、税込価格なのかどうかが心配になる方も多いと思います。
しかし不動産の取引において、物件の購入額・売却額は税込み価格の表示が義務付けられています。
もちろん追加で支払う必要はないうえに、総額表示制度によって消費税の内訳まで細かく明記されているので安心してください。
司法書士などへの依頼料には消費税が課税される
仲介手数料にも消費税が発生したように、司法書士に手続きを依頼した際も課税対象となります。
このときも国内の企業に依頼した場合は日本の税制が適用されます。
不動産取引においては依頼することが当然ともいえるほどなので、この点も注意しておきましょう。

海外不動産の消費税に関する質問
これまでの内容を踏まえ、以下では海外不動産投資で発生する消費税についてよくある質問を取り上げました。
海外の不動産にはどのくらいの消費税がかかりますか?
各国の消費税率は20%前後が多いですが、台湾では最も低い5%、ハンガリーは最高の27%となっています。
ただし日本でも食料品にかかる税率が8%であるように、取り扱う対象物・各国の税制によって税金は大きく変化します。
そのため一概に消費税を割り出すことは困難なので、不動産会社を仲介しながら詳細な現地の税制を学んでいくのが最適です。
まずは投資に有利な国を見抜き、十分な収益を上げられるような戦略を組んでいきましょう。
海外不動産を個人で扱ったら消費税はどうなりますか?
海外不動産投資はほとんどのケースで不動産会社を仲介することになるので、売主が課税事業者であるといえます。
よって個人で投資を始めても、これまでご紹介したとおり投資先の税制に従うことになると想定してください。

まとめ
この記事では不動産投資で発生する消費税の仕組みを理解するために、
- 消費税の課税対象となるもの
- 消費税の納税義務がある人
- 不動産投資で発生した消費税の納税方法
などを詳しく解説してきました。
不動産投資においては、通常建物価格にのみ消費税が発生し土地は非課税です。
国内の物件では築年数に関わらず10%が課税されるので、算出しやすくなっています。
ただし海外不動産を購入する場合は現地の消費税率が適用となり、算出方法が異なるケースも考えられます。
各国それぞれに税制が設けられているため、基本的には不動産会社を仲介して仕組みを理解する方が賢明です。
しかし表示されている不動産価格は、すべて消費税が含まれたものと義務付けられています。
あとから消費税が課税されることはないので、トラブルを生むことはないでしょう。
本記事で紹介した内容を参考に、不動産投資の消費税に関する知識を身に着けてください。