海外不動産に投資することで節税できるという言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。
ここ数年、海外不動産投資は富裕層が節税対策としてこぞって取り組んできました。
こうした海外不動産投資における節税効果は法人でも活用できるのでしょうか。
本記事では、法人における海外不動産投資の解説と節税スキームについてご紹介していきます。
法人が海外不動産投資で節税するスキーム
法人が海外不動産を所有することで節税につながるスキームとはどのようなものなのでしょうか。
ここでは、具体的に以下3つについてご紹介していきます。
- 海外不動産は減価償却の対象となる金額が大きい
- 海外不動産は経年による建物の価値の下落が緩やか
- 海外不動産の赤字を本業の利益と相殺できる
海外不動産は減価償却の対象となる金額が大きい
まず、海外不動産は減価償却の対象となる金額が大きいという点が挙げられます。
一般的に、日本の不動産と比べると、海外の不動産は土地建物の比率において、建物の比率が高くなりやすいです。
例えば、日本国内であれば土地と建物の比率が6:4といった物件だった場合、海外では2:8といった比率になることが多いのです。
これは、日本は島国で国土面積が少ないことなどが要因として挙げられます。
上記比率からみると、1億円の物件であれば日本だと建物価格4,000万円の場合でも、海外では8,000万円になります。
仮に20年で減価償却する場合、前者であれば毎年200万円であるのに対し、海外の不動産であれば400万円計上できるのです。

海外不動産は経年による建物の価値の下落が緩やか
一方、海外不動産は経年による建物の価値の下落が緩やかという点も押さえておきましょう。
日本は新築信仰があり、中古の建物は海外に比べるとまだまだ積極的に取引されにくい傾向にあります。
このため、中古物件において建物の価値が低くなりがちです。
一方、海外不動産は中古不動産の取引が活発で、古くなった建物の価値が落ちにくいです。
このため、例えば1億円で物件を購入し、20年間かけて減価償却による節税メリットを享受したうえで、20年後にも購入したときとそう変わらない金額で売却するといったことも実現しやすくなっています。
海外不動産の赤字を本業の利益と相殺できる
最後に、海外不動産に投資して発生してしまった赤字は、本業の利益と相殺できます。
なお、もともと海外不動産投資は、先述した土地と建物の比率の違いや経年だけでは資産価値が落ちにくいといった特徴もあり、減価償却費を活用して不動産投資で発生した赤字を本業の給与所得と損益通算するといったスキームが流行していました。
しかし、上記は日本と海外の税制やシステムの違いを活用した節税術であり、問題視されていました。
このため、令和2年度の税制改正により是正。
令和3年分より個人が海外の不動産に投資して発生した赤字については、簡便法により計算した場合、損益通算できなくなっています。
一方、上記はあくまでも個人が海外不動産に投資した場合に適用されるものです。
個人の場合は不動産から得られる家賃収入などの所得は不動産所得、会社に所得じて報酬を得た場合には給与所得などと分けて計算します。
しかし、法人の場合はまとめて所得を計算することもあり、海外不動産で発生した赤字については、問題なく他の所得の赤字と合算可能となっています。

法人の海外不動産における節税効果の計算例
ここでは、法人の海外不動産における節税効果の計算例を書いていきます。
法人の海外不動産投資は繰り延べ効果を活用
減価償却は、初年度に負担した費用を、翌年以降、実際の費用負担なく経費計上できるものです。
つまり、本来であれば初年度に経費計上すべきものを翌年以降に経費計上したもので、課税を繰り延べしているだけだといえます。
個人の不動産投資においては、所得に応じた累進課税になっていることもあり、経費を数年に分けて計上することで高い節税効果を得られます。
個人の所得税率
課税される所得金額 | 個人の所得税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
例えば、毎年の所得が900万円以上の方が、減価償却費を計上することで899万円以下に抑えることができれば、税率を10%安くできることが分かるでしょう。
一方、法人の場合は所得800万円以下と800万円超とで税率に違いがある他は、所得が高くなっても税率が大きくは変わりません。
年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% |
適用除外事業者 | 19% | |
年800万円超の部分 | 23.20% |
このため、法人が海外不動産投資して減価償却費を計上する際は、基本的には課税の繰り延べ効果を狙ったものになるでしょう。
減価償却を活用して課税を繰り延べることで得られるメリットには以下のようなものがあります。
- 課税所得800万円以下
- 複利効果
- 所得が高い年に売却する
以下、それぞれ計算しながら見ていきたいと思います。
課税の繰り延べ効果で得られるメリット1:課税所得800万円以下
先程、個人の場合は累進課税になっているため、毎年減価償却することで税率を下げることができるとお伝えしましたが、法人の場合でも、減価償却することで課税所得を800万円以下にできるのであれば同じ効果を期待できます。
まずは、毎年の課税所得が1,000万円ある法人が、2,000万円で家賃収入200万円/年の木造住宅を購入し、4年で減価償却するケースを見ていきましょう。
なお、法人の税金には法人税以外にも地方法人税や住民税、事業税などがありますが、ここでは計算を分かりやすくするために法人税のみで計算していきます。
この場合、海外不動産に投資する前の法人税は以下の通りです。
800万円以下の部分:800万円×15%=120万円
800万円超の部分:200万円×23.2%=46.4万円
法人税額:120万円+46.4万円=166.4万円
一方、同法人が海外不動産に投資して毎年500万円減価償却する場合の計算は以下の通りです。
課税所得:1,200万円-500万円=700万円
法人税額:700万円×15%=105万円
上記通り、課税所得が800万円を超えると税率が高くなるため、減価償却を活用して毎年の課税所得を800万円以下に抑えられるのであれば、課税の繰り延べ以外の節税効果も期待できるでしょう。
課税の繰り延べ効果で得られるメリット2:複利効果
2つ目は複利効果です。
課税を繰り延べることにより、毎年の税負担が減り、手元資金が増えることで、他の事業や投資等に資金を活用し、利益を生み出せます。
こうした効果が、年数を重ねる毎に、積み重ねっていく効果を得られるのです。
例えば、先ほどの例でいえば、課税所得1,000万円の法人が2,000万円の海外不動産に投資して減価償却を計上することで、法人税額を166.4万円から105万円に圧縮できています。
つまり、投資前と比べると、差額分の166.4万円-105万円=61.4万円が手元に残る計算です。
この61.4万円を毎年5%で運用した場合、10年間で以下のように利益が積み重なります。
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 |
61.4万円 | 64.5万円 | 67.7万円 | 71.1万円 | 74.6万円 |
6年目 | 7年目 | 8年目 | 9年目 | 10年目 |
78.4万円 | 82.3万円 | 86.4万円 | 90.7万円 | 95.3万円 |
上記通り、1年目には61.4万円だったものが、毎年5%で運用することにより、10年目には95.3万円にまで増えています。
減価償却を活用することにより、このお金が毎年手元に残ることになるのです。
課税の繰り延べ効果で得られるメリット3:所得が高いときに売却する
また、減価償却を活用して課税の繰り延べ効果を得つつ、所得が高くなってしまったときに売却することで節税効果を得る方法もあります。
法人を運営していると課税所得が大きい年もあれば小さい年もあるでしょう。
例えば、3年後に1,000万円の役員退職金を支払うことが分かっているといったケースで、その年に海外不動産を売却して1,500万円の利益が出るとしましょう。
この場合、1,500万円の利益から1,000万円分の役員退職金を差し引いた500万円分を課税所得として計上できます。
大きく赤字になってしまうと金融機関からの融資を得られにくくなるといったリスクがありますが、法人で海外不動産に投資することでこうした効果を期待することもできるのです。

法人が海外不動産で節税する際の注意点
ここでは、法人が海外不動産で節税する際の注意点を見ていきましょう。
具体的には以下の3つです。
- 事業所得が出ていない状況では節税効果がない
- 不動産売却時に課税される可能性がある
- 今後は法人も税制改正で節税できない可能性がある
事業所得が出ていない状況では節税効果がない
海外不動産に投資して節税するスキームは、不動産を運用することで発生した赤字分を事業から得られる黒字分と合算することで、合計の課税所得を減らすというものです。
事業による利益が出ていない状況では、節税になりません。
場合によっては、単に赤字を拡大してしまう可能性もある点には注意が必要です。
不動産売却時に課税される可能性がある
また、不動産売却時に課税される可能性がある点にも注意しなければならないでしょう。
海外は日本と比べて中古不動産の取引が活発で、資産価値が落ちにくいものです。
場合によっては、購入時より売却時の方が価格が高くなっているといったことも起こりえます。
特に途上国などで、近隣の開発が一気に進んで、資産価値が大きく上昇したといった場合は、売却価格から購入価格や諸費用を差し引いた利益分に対して課税されてしまう点に注意しなければなりません。
なお、コンサルティング企業、Mordor Intelligenceの調査によると、2022年から2027年の間に、エジプトの住宅用不動産市場のCAGRは6.5%以上になると予測されています。
Global Industry Analysts, Inc.の発行する「不動産の世界市場」では2020年から2027年における世界の不動産市場のCAGRは2.9%とされており、世界の平均から見てもエジプトは大きく上昇していく見込みです。
もちろん、資産価値が上昇した分、売却時には大きな利益を得られますが、利益が大きくなる分、課される税金が大きくなってしまう可能性がある点には十分注意しなければなりません。

今後は法人も税制改正で節税できない可能性がある
先述の通り、海外不動産に投資して発生した赤字について、給与所得など他の所得と損益通算するスキームについては、令和2年度の税制改正により令和3年より禁止されています。
現時点では、法人の海外不動産投資には上記の制限が課されていません。
個人において海外不動産投資による節税が禁止された理由として、「富裕層がこぞって海外不動産投資で節税対策をしたこと」が挙げられます。
今後、節税目的で法人を所有して海外不動産に投資するケースが多く見られる場合、法人も個人同様に規制される可能性もあるでしょう。

法人が海外不動産投資をする方法
海外不動産投資が法人の節税対策として有効であることをお伝えしました。
しかし、実際にどうやって海外不動産に投資すればよいか分からないという方も多いでしょう。
ここでは、法人が海外不動産に投資する方法として、以下3つをご紹介します。
- 日本の不動産会社の仲介で購入する
- 海外の不動産会社から直接購入する
- 税理士などの専門家から紹介してもらう
日本の不動産会社の仲介で購入する
まずは日本の不動産会社に仲介してもらって海外の不動産を購入する方法です。
海外拠点を持っていたり、コネクションを持っていたりする不動産会社を探して、仲介契約を結びます。
こうした不動産会社は、海外現地のディベロッパーと契約を交わしています。
自分でディベロッパーと交渉したり、また現地の専門家にコンタクトを取ったりするのと比べると、手間がかからない方法だといえるでしょう。
日本人に相談することができ、日本語で手続きを進められる点もメリットです。
ただし、海外の不動産会社等と直接交渉する方法と比べると、取扱い物件が限られる点などがデメリットとして挙げられるでしょう。
海外の不動産会社から直接購入する
2つ目は海外の不動産会社から直接購入する方法です。
海外の不動産会社の中にも、日本人向けのスタッフを用意しているケースもあるでしょう。
とはいえ、日本の不動産会社に仲介を依頼するのと比べると、基本的に日本語が通用しません。
言語や商慣習など、十分な知識がないまま高額な取引をする契約を組むのは危険です。
場合によっては、法外な手数料を請求されるといったケースもある点には注意しなければなりません。
税理士などの専門家から紹介してもらう
3つ目の方法として、税理士などの専門家から紹介して貰う方法もあります。
海外不動産投資は、節税対策として始める方が多く、税理士の先生の中には懇意にしている不動産会社やコンサルタントの方とつながりがある方もいらっしゃいます。
中には、直接現地の不動産会社とつながりがあるケースもあるでしょう。
税理士などの専門家の方から紹介してもらうメリットとして、例えば税理士の先生であれば、海外不動産投資に精通している可能性が高く、専門家の視点からアドバイスを受けられるということが挙げられます。

節税の観点から見た海外不動産投資とREIT(リート)の違い
海外不動産に投資する方法として、不動産に直接投資する方法とは別に、REITに投資する方法もあります。
REITは上場不動産投資信託のことで、プロである投資法人が複数の不動産を所有して運用し、不動産から得られる収益を分配金として受け取れるものです。
ここでは、節税という観点からみた、海外不動産に直接投資する方法と、REITに投資する方法の違いを見ていきたいと思います。
海外不動産投資
海外不動産投資においては、本記事でご紹介したとおり減価償却費の計上により非常に高い節税効果を期待できます。
特に日本と比べると建物の資産価値が高く、数年間かけて減価償却費を計上した後に、不動産を売却しても、購入時と売却時の価格があまり変わらなかったり、場合によっては高くなっていたりといったことを期待できる点は大きなポイントです。
また、減価償却費だけでなく管理費などの各種経費を計上でき、他の所得と相殺することが可能です。
REIT(リート)
REITの場合、取得時より売却時の価格が高い場合には、その利益に対して税金が課されます。
一方、取得税より売却時の価格が安かった場合には、その差額を支出として計上することが可能です。
ただし、海外不動産に直接投資する際に計上できる、減価償却費や管理費などの経費は計上できません。
節税という観点でみると、REITより海外不動産に直接投資したほうが、さまざまな点でメリットが大きいといえるでしょう。
法人の海外不動産投資についてよくある質問
最後に、法人の海外不動産投資についてよくある質問をご紹介していきます。
法人が海外不動産投資をするには資格などは必要?
A.不要です。
法人が海外不動産に投資するにあたっては、原則として特別な資格は必要ありません。
不動産取引するにあたって、日本における宅建士のような役割を持つ資格は、世界各国に存在します。
とはいえ、これから海外不動産投資しようとする法人がこうした資格を取得しなければならないわけではありません。
日本における宅建士と同じように、海外の不動産会社に依頼して資格を持つ人に取引してもらえばよいのです。
ただし、外国人の不動産取得に対して、取得数や面積など制限しているケースがある他、現地法人を設立する場合に取締役の半分を現地の国籍を持つ人にしなければならないといった規制があるケースがあります。
これらの規制は国ごとに異なり、また定期的に更新がなされるものなので、投資を検討している国でどのような規制がなされているかを事前にチェックしておくことが大切です。

REITとJ -REITの違いを教えてください
A.制度上の違いがあります
REITは「Real Estate Investment Trust」の略で、J-REITのJは日本のこと。
つまりJ-REITは日本で組成される投資信託です。
両者の基本的な仕組みは同じですが、若干の制度上の違いがあります。
その1つが、J-REITが既存の不動産物件のみを運用するのに対し、REITは既存不動産の運用の他、不動産を開発して運用できる点です。
このため、投資したREITが所有する不動産において、開発が成功すればJ-REITより高い利回りを実現できます。
その他、J-REITは日本国内で運用される不動産物件を運用対象としているのに対し、REITは世界中の不動産が対象となり、幅広い銘柄が存在することも異なる点でしょう。
なお、国外の不動産を運用するREITに投資する場合は、その不動産が存在する国のカントリーリスクや為替リスクを考慮しなければなりません。
海外不動産投資会社「オープンハウス」は法人でも利用可能?
A.法人でも利用可能です
海外不動産投資会社「オープンハウス」は個人だけでなく法人でも利用できます。
そもそも、不動産投資は、投資を始める際に節税目的で法人化するケースも多く、基本的には個人であっても法人であっても利用可能と考えてよいでしょう。
ただし、オープンハウスの子会社である「アイビーネット」で融資を受ける際には、個人の場合は物件価格の70%まで円建てで融資を受けられるのに対し、法人の場合は物件価格の50%程度までしか融資を受けられない点に注意が必要です。
まとめ
海外不動産投資における節税スキームや具体的な計算例、注意点などご紹介しました。
個人における、海外不動産投資の節税スキームは、令和2年度の税制改正により令和3年より禁止されることになりました。
一方で、法人では禁止されておりません。
日本と海外における、税制の違いや中古物件への考え方の違い、国土面積などからくる土地費用の違いなどを活用した節税スキームは、法人においては有用性が高く、積極的に活用したいものだといえるでしょう。
日本では海外不動産投資と聞くとアメリカやハワイを思い浮かべる方も多いかと思いますが、東南アジアやエジプトはまだ多くの方が注目しておらず、今後の成長性を考えると、ぜひ検討すべき国だといえます。
本記事の内容を参考に、まずは専門家への相談からしてみてはいかがでしょうか。