近年、海外不動産投資は、多様なリターンやリスク分散の観点から注目されていますが、所得税や節税方法について理解しておくことが重要です。
キャピタルゲインやインカムゲインのことばかりを考えがちですが、税金が利益を大きく蝕んでしまうことは少なくありません。事前知識を入れておくことでできるだけ大きな利益を期待することができます。
この記事では、海外不動産投資の所得税について徹底解説しています。
日本に居住地がある場合の海外不動産投資における課税対象や、節税方法を初心者のためにわかりやすく解説します。
基本情報|海外不動産投資の所得税
海外不動産投資の所得税は、通常、賃貸収入、売却時の利益などに対して課税される税金で、
国によって異なる税率が適用されることが一般的です。
最初に、この所得税についての認識を深めていきましょう。
基本的に不動産で得た収入は所得税の課税対象
海外不動産投資で得られる収入は、賃貸収入(インカムゲイン)と売却時の利益(キャピタルゲイン)で得られることが一般的です。
それらは、通常、投資家の居住国において所得税の課税対象となり、海外不動産だから非課税ということにはなりません。
具体的には、家賃収入は「不動産所得」、売却益は「譲渡所得」として課税されます。
ここで注意すべきは、海外不動産投資も日本国内の不動産と同様に、家賃収入から必要経費を差し引いた「純利益」が課税対象となる点です。
必要経費には、修繕費、固定資産税、管理費、保険料、減価償却費などが含まれます。また、譲渡所得は売却価格から取得費や売却に関する費用を差し引いた金額が課税対象となります。

不動産投資で発生する所得税は最大45%
不動産投資から得られる所得に対する税率は、国や投資家の所得レベルによって異なり、日本のように累進課税の場合は、所得が増えるにつれて税率も上がります。
日本の所得税は、対象の課税所得金額が4,000万円を超える場合、税率が45%と非常に大きくなります。
したがって、海外不動産投資で利益の拡大だけを目指すのではなく、所得税などの税金を考慮しながら投資を行うことが重要です。
日本に居住地がある場合両国の税制に従う
日本に居住地がある投資家が海外不動産投資を行う場合、日本の税法と投資先国の税法の両方に従う必要があります。
居住地の概念は、税法上、その国に経済的な繋がりや生活の中心があることを意味し、日本に居住地がある場合、日本の税法では「居住者」とみなされます。
居住者とは、具体的には下記の条件のいずれかに該当する場合をいいます。
- 日本に住所を有する者
- 日本に継続して1年以上居住する者
日本は「全世界所得課税」を採用しており、日本に居住地がある限り、海外で得られた所得も日本の所得税および住民税の課税対象となるのです。
所得税は外国税額控除の対象
海外不動産投資において、投資先国と日本が租税条約(二重課税回避協定)を結んでいる場合、所得税について外国税額控除が適用されます。
外国税額控除とは、日本の居住者が海外で発生した所得に対して、すでに支払った外国の税金を日本での所得税額から控除できる制度です。これにより、投資家は二重課税を回避し、税負担を軽減できます。
外国税額控除を適用できるかどうかは重要ですので、事前に投資先として検討している物件の所在国が、日本と租税条約を結んでいる国であるかどうかを確認しておきましょう。
このような協定は、投資家が両国で税金を支払わなければならない状況を回避し、国際的な投資活動を促進することを目的としています。

海外不動産の保有時に発生する所得税
この章では、海外不動産を保有しているときに発生する所得税について解説します。
家賃収入が所得税の課税対象となる
海外不動産の家賃収入は所得税の課税対象であり、「不動産所得」というカテゴリーに分類され維持管理に必要な経費を差し引いた額で課税されます。
具体的な経費は前述の通り、、修繕費、固定資産税、管理費、保険料などが挙げられ、また、不動産を取得した際の購入価格に対する一定の割合を「減価償却費」として経費計上することも可能です。
しかし、減価償却に関する計算方法が、日本と異なりますので注意が必要です。
海外不動産でも日本の減価償却制度が適用されますが、耐用年数が国によって大きく異なるため、税額が変わることがあります。
例えば、アメリカやイギリスでは、耐用年数が日本よりも長いため、新築と中古の価格差が小さい場合があります。
減価償却費は経費の大部分を占めるため、外国税額控除の計算も変わってくることがあるので、物件を所有している国の税制をしっかり確認しておきましょう。
不動産運営時の経費は課税対象の所得から差し引く
海外不動産で得た所得でも国内不動産と同じように課税されますが、経費を課税対象の所得から差し引くことが可能です。
差し引き可能な経費については、下記のようなものがあります。
減価償却費・修繕費・損害保険料・固定資産税・事業税・不動産取得税・登録免許税・印税等
前述の通り、賃貸収入においても減価償却などの経費が多く、場合によっては赤字決算になることもありますが、損失は他の所得と通算することができます。

海外不動産の売却時に発生する所得税
この章では、海外不動産の売却時に発生する所得税について解説します。
売却益は譲渡所得として税金がかかる
海外不動産を売却した際に得られる利益は、譲渡所得として課税されます。
譲渡所得とは、不動産などの資産を売却した際に発生する利益のことを指します。
具体的には、下記のように不動産の売却によって得た収入から、取得費や譲渡費用などを差し引いた金額が譲渡所得となります。
【譲渡所得金額の計算方法】
収入金額 – (取得費 + 譲渡費用) – 特別控除額 = 譲渡所得金額
投資家が日本に居住している場合、日本の総合課税制度により、譲渡所得も所得税および住民税の対象となります。

物件の保有期間によって売却時の所得税が変わる
不動産を売却した際の税率は、不動産の保有期間によって変わりますので、以下で詳しく説明します。
5年以内で売却する短期譲渡所得
5年以下の短期で不動産を売買した場合は、短期譲渡所得として計算され、税率は所得税が30%、住民税が9%との合計39%となります。
※ただし2013年から2037年までは、復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付する必要があります。(東日本大震災の復興費用を賄うため)
短期譲渡所得の場合の、課税される税金の計算方法を具体例で見てみましょう。
【短期譲渡所得の場合の、課税される税金の計算方法例】
例えば、1,000万円(費用込)で購入した不動産を3年後に1,200万円で売却した場合、売却価格から取得価格を差し引いた200万円が譲渡所得となります。
この短期譲渡所得に対して課税される金額の計算は下記の通りとなります。
200万円×(所得税率30%+住民税率9%)=78万円
そして、この78万円に対して復興特別所得税2.1%が加算されるので、税金総額は下記の通りとなるのです。
78万円+(78万円×2.1%)=79万6,380円

5年より長く保有して売却する長期譲渡所得
5年より長く保有した不動産を売却した場合は、長期譲渡所得として計算され、税率は所得税が15%、住民税が5%の合計20%となります。
2013年から2037年まで復興特別所得税が加算されるのは、短期譲渡所得の場合と同じです。
長期譲渡所得の場合、課税される税金の計算方法を具体例で見てみましょう。
【長期譲渡所得の場合の、課税される税金の計算方法例】
例えば、1,000万円(費用込)で購入した不動産を6年後に1,200万円で売却した場合、売却価格から取得価格を差し引いた200万円が譲渡所得となります。
この長期譲渡所得に対して課税される金額の計算は下記の通りとなります。
200万円×(所得税率15%+住民税率5%)=40万円
そして、この40万円に対して復興特別所得税2.1%が加算されるので、税金総額は下記の通りとなるのです。
40万円+(40万円×2.1%)=40万8,400円
このように税負担は短期譲渡所得に比べて低くなるので、資産の売却を検討する際は、所得税や住民税の影響を考慮し、適切なタイミングで売却することが重要です。
一部の国ではキャピタルゲイン税が発生する
海外不動産投資において、一部の国ではキャピタルゲイン税が発生することがあります。キャピタルゲイン税とは、海外不動産の売却によって得られた利益に対して課される海外特有の税金です。
例えば、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなどが挙げられ、国によって税率や計算方法が異なります。
また、一部の国では、投資家がその国の居住者であるか非居住者であるかによって、課税の仕組みが変わる場合もあります。
そのため、海外不動産投資を行う際には、投資先国の税制を把握し、適切な対策を立てることが重要です。

海外不動産投資で発生する所得税を節税する方法
不動産投資で発生する所得税は、金額的にも大きいですので、正しい知識のもとに節税することが、収益を大きくするうえで重要です。この章では、節税に関するポイントを説明していきます。
減価償却期間が長い不動産を選ぶ
海外不動産投資で減価償却期間が長い不動産を選ぶことで、収益を大きくすることが考えられます。
減価償却期間が長い物件であればと、毎年の経費として計上できる額が小さくなりますが、長期にわたって家賃収入が得られます。
減価償却費は、物件の価値の経年劣化を会計上で表現するための仕組みで、現金が実際に出ていくわけではなく、キャッシュフロー自体には影響を及ぼさないのです。
一方、家賃収入などから得られる現金収入はそのまま続くため、減価償却期間が長い物件であれば、手元に残る現金は増える可能性があるのです。
例えば、アメリカの不動産投資では、耐用年数が一般的に日本よりも長く、物件価格が下がりにくい傾向があります。
これは、アメリカの建物が長寿命であることや、建築基準が厳格であることが影響しており、アメリカの物件を選ぶことで、減価償却期間が長くなり収益の拡大が期待できます。
このように減価償却期間が長い不動産を選ぶことは、投資全体の効率化やリスク管理の一環につながるのです。
損益通算を取り入れて年間の課税対象を減らす
確定申告の際に、損益通算を利用して年間の課税対象を減らすことはも、節税対策として考えられます。
損益通算とは、ある期間の利益と損失を相殺し、税負担を軽減する制度です。しかし、ただし、日本の税法において、個人が海外不動産投資で得た利益を他の種類の所得、例えば株やFXなどの投資の損失と通算することは原則として認められていません。
しかし、法人の場合は所得全体として一括して計算されるため、異なる投資からの利益と損失を通算することが可能です。
最低5年間保有してから売却する
前述の通り不動産を所有する期間によって税率が変わり、長期に保有するほど税率は低くなるので、最低5年間保有してから売却することが節税対策として挙げられます。
これは短期譲渡所得に対して課される税率よりも、長期譲渡所得に対して課される税率が一般的に低くなる傾向があり、その境界線が5年であるためです。
長期譲渡所得になるためには、不動産投資の管理方法も重要です。
保有期間を5年以上にすることを前提条件として、この期間中に、物件のメンテナンスやリフォームを適切に行い、資産価値を維持・向上させましょう。
また、賃貸経営においては、入居者の選定や家賃設定を適切に行うことで、安定した収益を上げることが望ましいです。
税率が低い国の不動産を選ぶ
海外不動産投資で、税率が低い国の不動産を選ぶことも、所得税を節税する方法の一つとして考えられます。これにより、現地での税負担が軽減されるため、投資効果を高めることが期待できます。
良い例として、ドバイが挙げられます。ドバイは、アラブ首長国連邦(UAE)の中心都市で、同国内で最も国際的なビジネス環境を持つ都市です。
ドバイでは、下記のような税金が基本的に課されない税制面での優遇措置があるため、投資家にとって魅力的な条件が整っています。
- 所得税
- 固定資産税
- 不動産取引税
- 贈与税
- 法人税
- 相続税
ただし、税率が低い国の不動産投資には、リスクも伴います。政治・経済状況の変化や法律・規制の違いに注意が必要です。

不動産投資の所得税に関して覚えておきたい5つのこと
不動産投資の所得税には、利益をより多く取れたり、損失を未然に防ぐことが可能になるポイントが5つありますので、それぞれを見ていきましょう。
個人投資家は海外不動産投資で損益通算ができない
不動産投資の所得税に関して覚えておきたい1つ目として、個人投資家は海外不動産投資において損益通算ができないことが挙げられます。
ただし、これは個人に対する規制であり、法人の場合はこれまで通り海外不動産における損益通算は可能です。
所得税は高額になりやすいので、正しい知識で備える必要があります。
家賃収入が十分に見込める不動産に投資する
不動産投資の所得税に関して覚えておきたいことの2つ目として、出口戦略において節税ばかりに目を向けるのではなく収益性が高い物件を選び、家賃収入が十分見込める不動産に投資することが挙げられます。
節税対策は重要ですが、それだけに依存せず、物件選びや収益性にも注力することが成功のカギとなります。
良質な物件を選ぶことで、安定した家賃収入が得られ、投資リスクも軽減されるでしょう。
物件選びには、立地条件や築年数、建物の状態、周辺の需要・供給バランスなどを考慮することが重要です。
所得を円換算するときは為替を確認する
海外不動産投資の所得税に関して覚えておきたいことの3つ目として、為替変動により税負担が大きく変わることへの配慮が挙げられます。
不動産所得の円換算には、譲渡所得の場合、譲渡日の為替レートを用いて換算し、取得時の原価については、取得日の為替レートを使用して円換算します。
これらの為替レートは、東京外国為替市場(TTM)のレートが一般的に用いられるので、所得を円換算する際に為替レートを確認することが重要です。
所得税は二重課税を考慮して確定申告をする
不動産投資の所得税に関して覚えておきたいことの4つ目として、所得税の二重課税を考慮して確定申告を行うことが挙げられます。
二重課税を回避するため、多くの国では租税条約が結ばれており、日本居住者は外国で支払った税金を日本の所得税から控除できる「外国税額控除」制度が適用されます。
この制度を利用することで、所得税の負担を軽減することが可能です。
確定申告時には、海外で発生した所得と支払った税金の詳細を正確に記載し、外国税額控除を適切に申告することが必要です。確定申告については、別記事で解説していますのでご参照ください。

両国で納税後に還元する方法をとることがある
不動産投資の所得税に関して覚えておきたいことの5つ目として、二重課税防止措置が適用されていても、一時的に二重払いになることがあり、両国で納税後に還元する方法をとるケースが挙げられます。
具体的には、まず投資先国で所得税を支払い、その後日本で確定申告を行い、外国税額控除などの手続きを通じて税金の還元を受けます。
このプロセスでは、一時的に両国で税金を支払うことになり、キャッシュフローに影響が出る可能性があるので、一時的な二重払いに対応できるだけの資金計画を立てておくことが重要です。
海外不動産の所得税に関する質問
最後に海外不動産の所得税に関する質問の中から、一般的なものを紹介します。
海外不動産投資の所得税は申告しなければバレませんか?
海外不動産投資の所得税については、日本の居住者である限り申告義務があります。
税務申告しないでいると、国税庁や地方自治体の税務課などがその事実を知ることは難しいかもしれません。
しかし、税務申告を怠ったことが発覚した場合、過去の未申告分に対する追徴税や延滞税、罰金などが課される可能性があります。
さらに、故意に申告を怠った場合は、税法違反となり、刑事罰の対象となることもあります。
また、OECD(経済協力開発機構)が推進する自動情報交換(AEOI)という制度によって、国際間での情報交換が進んでおり、海外での不動産取引や収入が日本の税務当局に知られる可能性もあります。
したがって、海外不動産投資からの所得についても、適切に税務申告を行うことが重要です。
海外不動産投資は所得税の節税になりますか?
個人の場合、海外不動産投資において損益通算ができないため、節税対策として投資を始めることはおすすめしません。
損益通算とは、投資で得た利益と損失を相殺し、実際に税金がかかる所得を減らすことができる制度です。
しかし、個人が海外不動産投資を行う場合、この損益通算が適用されないため、節税効果を期待することが難しいです。
法人の場合は、異なる事業所得間での損益通算が可能です。
したがって、例えば海外不動産投資による損失があった場合、その損失を他の事業所得と通算して課税所得を減らすことができます。

まとめ
本記事では、海外不動産投資における所得税の解説を詳しく行いました。
課税対象となる家賃収入や売却益について、日本国内と海外での税制の違いや二重課税の問題があります。
また、節税方法として、減価償却期間の長い物件を選ぶことや、税率の低い国の不動産への投資、損益通算を活用する場合の注意することも重要です。
個人投資家にとっては、海外不動産投資での損益通算ができないため、節税対策だけを目的に投資を始めることは避けるべきです。
海外不動産投資においては、安定したキャッシュフローや資産価値の向上、国際分散投資などを総合的に考慮し、リスク管理を十分に行った上で、適切な投資判断を行いましょう。