預貯金が一定程度貯まると、日本の銀行の金利の低さが気になります。特に日本の経済がインフレ傾向にあり、預貯金の目減りが明らかな状況下なら尚更です。
銀行の金利を上回る資産の預け先を検討した結果、たどり着く投資先のひとつは海外不動産投資です。株式や投資信託など、ほかにも投資先はありますが、海外不動産投資で獲得できる期待リターンの高さは抜きに出ています。
気になるのは、投資で得た利益にかかる税金です。特に海外不動産を売却したときに得られる利益額は高額になりやすく、税金に対する知識の有無で利回りが変わってしまいます。
海外不動産投資を始める前に、税金の知識を確認しておきましょう。
海外不動産売却時は主に譲渡所得に税金が発生する
はじめに海外不動産投資において、どんな行動を取ったとき、税金が発生するのか確認します。結論を先に述べると、不動産を売却して譲渡所得を得たとき、税金を支払う義務が生じます。
譲渡所得とは
譲渡所得は、不動産や有価証券を売却したときに得られる所得のことを指しています。売却時の金額から、取得するために要した費用を差し引いて計算します。
海外の不動産を売買して得た所得であっても、日本で課税されることになる点に留意しましょう。
海外不動産の所得額は為替レートを考慮する
海外不動産の売買から所得額を計算するときは、為替レートの変動を考慮する必要があります。海外の不動産を購入・売却するときは、基本的には現地の通貨を用いるため、日本円と現地通貨との間で為替による実質的な金額の変動が生じるのです。
実際に計算するときは、不動産を取引した日の為替相場(TTM)を利用することになります。
日本円でのみ不動産価格の増減を捉えていると、為替差による損失を被る場合もあるので注意が必要です。
税金の詳細は現地の税制によって異なる
海外での不動産取引は、日本での税制とともに、現地の税制を理解する必要があります。
たとえばアメリカでは、キャピタルゲイン税と呼ばれる税金を徴収していて、不動産や有価証券を売買したときに得られた所得に課税されます。
州や所得額によって税率が異なるものの、条件が整うと50%を超える税金になることもあるので、国によって異なる税制を把握しておかないと、不動産売買で利益が得られても税金として取られてしまうかもしれません。

不動産売却時の税金は自身の居住地によって税制が異なる
不動産を売却したときの税金が、所得税を支払う人の住んでいる地域によって異なることをご存知でしょうか。居住・非居住・非永住とで売却時の税金が変わる可能性があるので、確認しておきましょう。
居住者|日本と現地の税制共に適用
日本では所得税法で「居住者」の定義が決められています。国内に住所を持つか、1年以上居住し続けている個人を居住者といいます。日本に住んでいる多くの人は、居住者に該当すると考えてよいでしょう。
居住者は、所得が生じた場所が日本であっても海外であっても、全ての所得に対して課税されます。

非居住者|日本国内で発生した所得のみ税金が発生
海外在住者のような、居住者以外の個人を「非居住者」と呼びます。日本国内に住所を持っていない人や、居住期間が1年未満の人を指します。
非居住者は、日本国内で発生した所得に対してのみ課税されます。
非永住者|日本で受け取った所得に日本の税制が適用
非永住者は、居住者の中でも、日本国籍がなく過去10年以内に日本国内に住所・居所を有した期間の合計が5年以下の個人を指します。
国外で生じた所得以外の所得、および国外源泉所得で日本国内で支払われた、または日本に送金されたものに対して課税されます。
このように、日本居住・海外在住の別で、日本で支払うべき税金の範囲は異なります。特に海外に在住して活動している人は、どの区分に該当するのか把握しておきましょう。

外国税額控除の概要
外国税額控除は、日本に住んでいる人が外国で所得税を支払った分、日本での所得税を控除し二重で税金を支払う事態を回避するための制度です。
海外不動産の売買で利益が出ても、所得税として徴収されれば利回りは低くなってしまいます。制度を活用して所得税を軽減しましょう。
外国税額控除額の計算方法
外国税額控除は、対象となる外国所得税の金額が、次の算定式で求められた額を超える場合と超えない場合で異なります。
所得税の控除限度額 = その年分の所得税の額 × (その年分の調整国外所得金額 / その年分の所得総額)
外国所得税の金額が、算定式で求められた額に満たない場合は全額を控除できます。一方で限度額を超える場合は、次のいずれか少ない方に控除限度額を加えた金額を控除できます。
- 外国所得税の額から控除限度額を差し引いた金額
- 復興特別所得税の控除限度額=その年分の復興特別所得税額 × (その年分の調整国外所得金額 / その年分の所得総額)
分かりやすいように、実際に外国税額控除を受ける場合の計算例を紹介します。
【外国税額控除を受ける場合の計算例】
はじめに対象となる年の所得税の総額を求めます。
総所得が1,000万円の場合、所得税の税率は33%、控除額は153万6000円です。
(本来は超過累進課税で計算しますが省略のため速算表から計算しています。)
1,000万円×33%-153万6000円=176万4000円
次に、先述した外国税額控除の計算式に当てはめます。今回は国外で得た所得の金額を500万円と想定します。
176万4000円×(500万円/1,000万円)=88万2000円
以上の計算の結果から、88万2000円を限度に外国税額控除を受けられます。

外国税額控除の確定申告方法
外国税額控除の金額を計算した後、確定申告で控除の申請を行うことで所得税を軽減できます。
控除を受けるためには、以下の書類を準備する必要があります。
- 外国税額控除に関する明細書
- 外国所得税を課されたことを証する書類
- 外国所得税に該当することについての説明を記載した書類
- 外国所得税の納付を証する書類
- 国外源泉所得の金額の計算に関する明細を記載した書類
その上で、確定申告書を作成し、外国所得のあった日の翌年、2月16日から3月15日の間に居住している地域の税務署に提出します。提出方法は窓口への持参、郵送、電子申告などの手段があります。


不動産売却時の税金算出方法
海外不動産を売却したとき、具体的にどの程度の税金を支払う必要があるのか、税金の算出方法について解説します。
日本の不動産売買における税金は、所有期間が5年以下か、5年を超えるかで大きく変わる点に注目です。
所有期間が5年以下の場合
不動産を所有する期間が5年以下の場合は、短期譲渡所得の計算式を用いて税額を求めます。
計算式、および税額は以下のとおりです。
【短期譲渡所得の計算式】
計算式:課税短期譲渡所得金額=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除
税額:課税短期譲渡所得金額×30%
なお、30%は所得税の金額で、9%の住民税、および令和19年までは復興特別所得税として2.1%が加算され、所得額に41.1%を乗じた金額が実際の税額となります。
なお、不動産の所有期間は、土地・建物を譲渡した年の1月1日現在を基準として考える点に注意しましょう。

所有期間が5年を超える場合
続いて不動産を所有する期間が5年を超える場合は、長期譲渡所得の税率を用いて税額を計算します。計算式は短期譲渡所得と変わりません。
【長期譲渡所得の計算式】
計算式:課税長期譲渡所得金額=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除
税額:課税長期譲渡所得金額×15%
長期譲渡所得の場合は住民税が5%で、復興特別所得税は変わらず2.1%です。所得税・住民税・復興特別所得税を合わせて22.1%を乗じた金額を支払うことになります。
たとえば、5,000万円の不動産所得を得た場合、長期譲渡所得では税額は1,105万円ですが、短期譲渡所得では2,055万円にもなり、およそ2倍もの税金を支払うこととなります。
所有期間によって支払う税額が大きく変わることは認識しておきましょう。
居住用不動産を売却した際の特別税金控除
自分が住んでいる家屋を売却する場合は「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」を利用することで、大幅に減税できる可能性があります。
この制度は、現在住んでいる自宅を売却すること、買主が親族以外であることなど、複数の条件を満たすことで、譲渡にかかる所得税を3,000万円を限度として控除するものです。
不動産の売却による所得が3,000万円を超える場合は3,000万円までの金額が、3,000万円を下回る場合は全額が控除されます。
条件に当てはまる場合は必ず利用するべき制度です。

不動産売却時の税金納付方法
不動産を売却し所得額が確定した後は、税金を納付する必要があります。先述した居住者・非居住者、いずれに該当するかで納付方法が異なるので、当てはまる方法を確認しましょう。
居住者は期日までに確定申告を行い納付する
居住者の場合は、個人事業主などが一般的に行っている確定申告と同じ流れで税額を申告し納税します。具体的には2月16日から3月15日までの期間に、確定申告書を提出するとともに、納税も行います。
確定申告書の中には所得金額欄があり、内訳に「不動産」と記載があるので、計算した不動産所得の金額を記入すれば問題ありません。
非居住者は条件によって源泉徴収される
非居住者が海外の不動産を売却するとき、源泉徴収される場合とされない場合があります。
非居住者は日本で発生した所得に対して課税されるので、海外の不動産を売却しても、日本では課税されません。国内の不動産を売却したうえで「買主が個人でないこと」「買主本人または買主の親族の居住用でないこと」「売却価格が1億円を超えること」いずれかに該当した場合、10.21%の源泉徴収を受けることになります。
非居住者の確定申告は納税管理人が代行する
非居住者が確定申告を行う場合、納税管理人が申請を代行することとなります。
納税管理人とは、納税・還付金の受け取り、各種書類の受け取りや提出などを、納税義務者に代わって行う人です。
納税管理人を定めないと納税通知書が送付されても受け取ることができず、結果として支払いが遅れ延滞金が加算される恐れもあります。

海外不動産売却時の税金に関して覚えておきたい5つのこと
税金の算出方法や支払い方法など、不動産投資の税金に関する概要をつかんだところで、これから海外不動産投資を行う予定の人が知っておくべきことを解説します。
知らなければ大きな損失を被ったり、利益が出ても海外から日本へ資産を移せないなどといった事態に陥るかもしれません。
個人投資家は売却益の節税ができないので注意
2020年に税制改正が行われるまでの間、海外不動産における減価償却費を利用して大幅な赤字を計上、日本での所得と損益通算することで節税するスキームが流行していました。
しかし現在では、個人投資家はこの節税スキームを利用できなくなっています。
税制改正により個人投資家のの損益通算が禁止に
2020年の税制改正大綱に記載され、2021年(令和3年)の確定申告分から「国外の不動産から生じた損失のうち、減価償却費にあたる金額はなかったものにする」と法律が改正されています。
結果として、海外不動産の減価償却費を利用した節税スキームは行えなくなっているので注意しましょう。
なお、この改正は個人に対するもので、法人であれば従来通り損益通算して所得税を減税することは可能です。
節税のために法人を設立するのは危険
減価償却費を利用した節税スキームを利用できても、節税を目的とした法人の設立はおすすめできません。
法人の設立には、定款の作成や登記など、設立に数十万円の費用を要します。さらに、社会保険への加入や法人の確定申告など、事務・会計分野での管理事項が増えてしまいます。
決算報告書の作成・確定申告は税理士に依頼することにもなるので、法人を設立した方が損をする可能性もあります。

TTSレートとTTBレートの相場を確認する
海外不動産を購入するときは日本円を外貨に両替する必要があり、逆に売却するときは外貨を日本円に両替する必要があります。円を外貨に両替するときの為替レートをTTS、外貨を円に両替するときの為替レートをTTBと呼びます。
海外不動産投資は、為替相場と売買タイミングによって利益と損失の金額が大きく変わるので、常に為替相場を確認する必要があるといえるでしょう。
物件の贈与や相続は別の税金が発生する
家族や知人との間で、海外不動産の相続や贈与を受ける場合もあるでしょう。この場合は所得税はかからず、別の税金を支払う必要があります。
家族間で海外不動産の相続が発生した場合は、相続税を支払わなければいけません。日本、または現地の不動産鑑定士に依頼して時価を確認したうえで、10%から最大55%の相続税を支払う必要があります。
また、友人などへ海外不動産を贈与する場合は、贈与者・受贈者の住所によって課税対象となる場合とならない場合があるので、確認が必要です。贈与税も相続税と同様に10%から55%の税率を支払わなければいけません。

投資前に現地の税制や出口戦略を十分に把握しておく
海外不動産投資を行うなら「現地の税制の把握」と「出口戦略」の二点を、不動産の購入前に考えておきましょう。
先述したとおり、アメリカの一部地域では条件が揃えば50%を超える税率がかけられます。国によって税率は大きく異なるという認識が大切です。また、多くの国で物件を保有する期間によって税率が変わる点、日本との二重課税が行われないようにする協定が締結されていない国もある、といった点にも注意しましょう。
さらに譲渡所得を算出する際は、購入代金や売却金額のほかにも、税金や登記費用、利子や維持修繕費用など様々な費目が関係するので、物件を購入する際に検討を行う利回りを試算する段階で予測を立てることが大切です。
税金が安い国や売却益が多い国への投資を検討する
海外不動産投資で利益を上げたいなら、税制面で有利な国を対象にした投資を行いましょう。
たとえばドバイは、付加価値税5%を除く、印紙税や固定資産税を始めとする各種税金が設定されていません。投資で得た収益から税金が引かれないので、期待される利回りが大きくなります。
また、税制面でのメリットが少なくても、大きな売却益が見込めるエリアへの投資がおすすめです。たとえばエジプトでは、新首都の計画・工事が進められていて、地価の大幅な増加が期待されています。
こうした税制・期待利回りが有利な地域の不動産に投資することが高い利回りを得るためのコツです。

海外不動産売却時に発生する税金に関する質問
記事の終わりに、海外不動産投資と売却時の税金について、聞かれることの多い質問に回答します。
海外不動産を売却したことはバレる?
海外の不動産を対象とした投資で大きな利益を得ると、つい「申告しなくてもバレないのでは」と思ってしまいます。
しかし、税金を徴収する役割を担う国税庁は、金融機関の口座情報を入手することができ、大きな金額の取引や怪しい金の流れがあれば、疑いの目を向けられる可能性があります。
また、外国から日本に一定以上の金額の送金があった場合は、事後報告する義務もあるので、海外不動産投資の売却は「バレる」と思ったほうがよいでしょう。
海外不動産の売却時に申請漏れがあったらどうなりますか?
海外不動産を売却したとき、申告漏れがあった場合は罰金や懲役刑に処せられる可能性があります。
不動産の譲渡益をうっかり少なく申告した場合でも、過少申告加算税や無申告加算税などの対象となり、5~20%の加算税を支払わなければいけません。
無申告を繰り返す場合など悪質な場合は、重加算税として最大50%も多く税金を支払うケースもあり、申告漏れや脱税は結局多くの税金を支払うことになるので、適切な所得の計算と申告が求められます。
不動産売却時にかかる税金は個人と法人で異なりますか?
個人が不動産を売却したとき、税金は土地・建物の譲渡所得に対して課税されます。一方で法人の場合は、不動産の売却益だけでなく事業で得た所得も合算して計算、課税されます。
法人の場合は海外不動産投資で生じた減価償却費を計上できることから、全体の所得を減らして節税する方法がたくさんあるということです。
一方で、所得に対して課される税率は、個人の方が有利になるケースもあります。先述したとおり、個人が不動産を売却するときの税率は、短期譲渡所得の場合41.1%、長期譲渡所得の場合22.1%です。対して法人税の所得に課される、法人税や地方法人税などを合算した実効税率は30%前後(法人の所得額や所在地などによって変動します)です。
不動産の売却が短期・長期どちらに該当するのか、さらに法人税の実効税率がいくらになるのか、ケースごとに有利な選択肢は異なりそうです。

まとめ
海外不動産を売却したときの税金について解説しました。
不動産投資を行う際に、税金は利回りに大きく影響します。たとえば短期譲渡所得と長期譲渡所得は税率に20%もの差が生じるため、5,000万円の不動産を売却した場合に1,000万円の差が生じます。
税金を上手にコントロールすることで、投資の成果は全く異なるものになるでしょう。
一方で、海外の税制や個人と法人の違いなど、税金に関する知識は広く深いので、一個人で全容を把握するのは難しいものです。信頼できる海外不動産投資の専門家を味方につけ、いつでも税制について相談できる環境を作ることが大切です。